ブログTOP
Takumi Watanabe
日本企業によるベトナムオフショア開発への投資が拡大する一方で、現地エンジニアの人件費上昇や獲得競争の激化により、従来の「低コスト」前提のビジネスモデルは転換点を迎えています。
本記事では、ベトナムオフショア市場の実態を最新データで分析し、成功企業が実践する発注戦略から今後の展望まで、実務担当者が知るべき情報を解説します。

日本企業の多くがベトナムを主要なオフショア拠点として注目する背景には、国内IT市場の構造的な課題と、ベトナム市場特有の優位性があります。
日本のIT人材不足は深刻化しており、経済産業省の調査資料によると、2030年までに最大79万人のIT人材が不足する見通しです。
この供給不足は、DX推進による需要拡大が拍車をかけ、国内エンジニアの賃金上昇を招いています。その結果、国内で開発体制を維持するのが難しくなり、オフショア開発への関心が高まっています。
ベトナムがオフショア開発先として高い人気を保っているのは、単なる低コストだけではありません。以下の4つの強みが、日本企業から選ばれる理由です。
若年人口の多さとエンジニア育成体制:労働力人口が多く、継続的なIT人材の供給が期待できます。
コミュニケーションのしやすさ(文化・言語):国民性が勤勉で、日本との歴史的・文化的背景が近く、円滑な意思疎通ができます。
日本企業の進出実績が豊富:長年の取引実績により、業務ノウハウが蓄積されており、安心して発注できます。
欧米との時差メリット:日本との時差がわずか2時間のため、リアルタイムでの会議や緊急対応が容易です。
こうした要素から、ベトナムは単なるコスト削減の場所ではなく、長期的な開発パートナーとして位置づけられています。
関連記事:ベトナムオフショア開発会社おすすめ5選|失敗しない会社選びのチェックポイント
ベトナムのオフショア市場を正確に把握するには、定性的な情報だけでなく、エンジニア人口の推移や単価相場といった具体的なデータに基づく分析が欠かせません。ここでは、市場規模や進出状況、コスト構造の最新動向について解説します。
※注:下記のデータは、複数の市場調査レポートに基づき弊社が独自に作成した概算の目安となります。(2025年時点)
ベトナムのエンジニア人口は堅調に増加しており、2022年の38万人から、2026年には53万人に達する見込みです。
背景には、多くの大学や専門ITスクールが若手人材を継続的に市場に送り出していることがあります。
スキル分布を見ると、近年は単純なコーディングにとどまらず、AI・データサイエンス・サイバーセキュリティといった高付加価値分野に対応できる人材の育成が進んでいます。一方で、シニア層やプロジェクトマネジメント(PM)層など、経験豊富な人材の割合はまだ少なく、採用競争が特に激しい側面があります。
ITエンジニア総数の推移と予測
IT関連の年間卒業生数(大学・ITスクール含む)の推移と予測
スキル分布(概算の割合)
日系企業は、ベトナムの主要都市であるハノイとホーチミンを中心にオフショア開発拠点を構えています。金融、小売、製造業など幅広い業界で開発拠点が設置され、現地のエンジニアを活用したプロジェクトが活発に進められています。
ベトナムにおける日系IT企業の業界別進出分布(2026年予測)
ベトナムの人月単価は、現地エンジニアの需要増と人件費の上昇に伴い、継続的に増加傾向にあります。
2023年から2026年にかけては、特に経験豊富なシニアエンジニアやPMの単価上昇率が高いと予想されます。一方で、ジュニアレベルのエンジニア単価は、供給量の増加により比較的緩やかな上昇に留まる見込みです。
職種別に見ると、PMやQA(品質保証)の単価は、通常の開発エンジニア単価よりも高い水準で推移しており、プロジェクト管理能力に対する市場評価が反映されています。最新の単価相場に基づき、予算計画を立てるようにしてください。
職種 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 | 2026年(予測) |
PM | 55 | 60 | 65 | 70 | 75 |
BrSE | 48 | 52 | 56 | 60 | 64 |
シニアエンジニア | 40 | 44 | 48 | 52 | 56 |
プログラマー (PG/ジュニアSE) | 33 | 36 | 39 | 42 | 45 |
QA | 28 | 31 | 34 | 37 | 40 |
ベトナムオフショア開発の市場が成熟するにつれて、従来のメリットに加え、現場で対応が求められる新たな課題やリスクも見え始めています。これらの課題を事前に理解し、対策を講じることが、プロジェクト成功の前提条件になります。
コスト、人材、品質、コミュニケーションの4つの側面から、実務で直面しやすいリスクを深く掘り下げます。
ベトナムの人件費は、経済成長と需要拡大を背景に、周辺国と比較しても上昇ペースが速い傾向にあります。特に優秀なエンジニアほど、国内大手IT企業や外資系企業に高待遇で引き抜かれるなど、採用競争が激しくなっています。
こうした人材流出を防ぐには、単に給与水準を上げるだけでなく、エンジニアに対して魅力的なキャリアパスや教育機会を提供することが重要です。「低コスト」だけを重視する発注方針はすでに限界に近づいており、今後はコストと品質の両立を前提にした戦略が求められます。
オフショア開発における品質低下の主な原因は、オンサイト(日本側)とオフサイト(ベトナム側)の連携課題から生じます。日本側の要件定義が不十分、あるいは頻繁な仕様変更が生じると、オフサイト側との認識がずれ、成果物の品質に影響を及ぼします。
また、プロジェクト管理(PM)が不足している場合、弱い場合は進捗の可視化が遅れ、問題発見が後手に回る傾向があります。品質維持には、明確な仕様共有と継続的な進捗確認のプロセスを両拠点で確立することが求められます。
ベトナムのIT業界は人材流動性が高く、離職率の高さがチームの長期的な維持を難しくしています。優秀な人材は自身のスキルアップやキャリアの機会を求め、転職を繰り返す傾向があり、その結果、プロジェクト途中でキーパーソンが抜け、技術的負債やノウハウの散逸が起きるリスクがあります。
離職を防ぐには、給与面だけでなく、快適な開発環境の整備やスキル成長の機会、日本側との一体感を生むコミュニケーション強化が重要です。
ベトナム人エンジニアの多くは、技術力が高い一方で、日本語や英語でのビジネスコミュニケーションに課題を抱えるケースがあります。言語の壁が細かなニュアンスや文化的背景の理解を妨げ、仕様の認識ずれや誤解を招くことも少なくありません。
このギャップを埋めるには、発注側と開発会社の双方で教育コストを負担し、連携強化に取り組む必要があります。
特に要件定義やユーザーテストの段階では、通訳やブリッジSE(BrSE)を効果的に活用し、ドキュメントベースでの確認を徹底することが重要です。
関連記事:オフショア開発リスク完全攻略|「こんなはずじゃなかった」を防ぐ実践マニュアル
オフショア開発を検討する際、ベトナム市場を相対的に評価するためには、アジアの主要なオフショア開発拠点と比較することが有効です。各国の強みと弱みを理解することで、自社のプロジェクトに最適な発注先を判断しやすくなります。
インド、中国、ミャンマーと比較しながら、ベトナムの競争優位性と課題を整理します。
インドは、ベトナムと比べて圧倒的に多いエンジニア人口を持ち、大規模プロジェクトや大量の人員を要する開発で強みを発揮します。。英語圏の開発文化に近く、AIやデータサイエンス、クラウド技術など先端技術分野の知見を持つ人材も豊富です。
しかし、日本との時差が大きく、ビジネス文化の違いから緊密なコミュニケーションを取りづらい面があります。
ベトナムはインドほどのスケールはないものの、日本との連携しやすさやコスト面でバランスが取れています。
中国はITインフラが整っており、エンジニアの平均スキルも高いため、大規模で複雑なシステム開発では高品質な成果を期待できます。一方で、人件費の上昇により、ベトナムと比べたコスト優位性は薄れつつあります。
さらに、政治リスクや情報セキュリティへの懸念、ビジネス文化の違いも、日本企業が発注する際の考慮事項となります。
ベトナムは、中国より単価はまだ低く、小~中規模のWebサービス開発では費用対効果に優れた選択肢といえます。
ミャンマーは、アジアのオフショア開発拠点の中でも人月単価が最も低い水準にあり、初期段階で「低コスト」を重視する企業にとって魅力的な選択肢です。一方で、政情不安や社会インフラの脆弱さがプロジェクトの継続性に影響し、納期の遅延リスクを高めています。
また、経験豊富なシニアエンジニアの数もベトナムと比べて少なく、品質維持の面で課題が残ります。
ベトナムは、ミャンマーよりは単価が高いものの、政治・経済の安定性と人材供給の安定度で優位性があります。
ベトナムオフショア開発が最も適しているのは、「コスト削減」と「品質・連携のしやすさ」のバランスを重視するケースです。たとえば、長期的なパートナーシップを前提とする中規模のWeb/アプリ開発や、日本側とのリアルタイムなやり取りが求められるアジャイル開発などが挙げられます。
発注先を選ぶ際は、単価だけでなく、ブリッジ人材の日本語能力、品質管理体制(QA)、過去の日系企業との取引実績を総合的に評価し、自社の事業戦略に合うか判断しましょう。
関連記事:ベトナムのオフショア開発が選ばれる理由|向いている案件・リスク・他国との違いまで解説 - オフショア開発ならBorder Z
ベトナムオフショア開発市場は、「安価な労働力提供」から「高付加価値な技術パートナー」へと移行しています。この前提を踏まえ、2026年以降を見据えた戦略的な発注体制を構築することが、オフショア開発を成功させるための重要なステップとなります。
ベトナムIT市場は、成長の構造転換期を迎えており、従来の大量コーディングや手動テストといった領域の需要は今後縮小していく見通しです。
一方で、AIアプリケーション層やIoT×AI/ロボティクス分野の拡大が市場を牽引し、SaaS/ERP拡張、セキュリティ、データ分析・機械学習(ML)、SRE(サイト信頼性エンジニアリング)といった高付加価値領域へのシフトが加速すると予測されています。
日本ではミドル・シニア層のIT人材不足と単価上昇が継続する一方で、ベトナムのエンジニア供給は増加が見込まれ、単価上昇は為替の影響で緩和される可能性があります。
単一の国や企業に開発リソースを集中させることは、リスク管理の観点から避けるべきです。ベトナムを中心に、他国を組み合わせたマルチシフト戦略を構築することで、外部環境の変化にも柔軟に対応できます。
例えば、ベトナムでWeb・モバイルアプリ開発を、インドや中国で先端技術や大規模な開発を委託するなど、各国の強みを活かした分散発注が有効です。
また、要件が明確で仕様変更が少ないフェーズでは請負型を、継続的な改善や仕様変更が多いプロダクト開発ではラボ型を採用するなど、契約形態の使い分けもリスク分散に役立ちます。
長期的に機能するパートナーシップにするため、以下を多角的に確認します。
セキュリティ/知財
ISO 27001など国際認証の有無と実運用(物理・論理・アクセス権限)を確認します。
NDA、成果物の権利帰属、再委託時の責任範囲など、知財保護条項が明確か精査します。
人材(BrSE/PM)
日本語運用レベル、要件詰め・進行管理・リスク対応の実績を面談+小規模トライアルで評価します。
主要メンバーの離脱時の引き継ぎ計画(バックアップ体制・ドキュメント化)を確認します。
品質管理(QA)
バグ基準、コードレビュー/テストプロセス(E2E・負荷・セキュリティ)の有無を確認します。
共有KPI(欠陥密度、テストカバレッジ、サイクルタイム等)、報告フォーマット、報告頻度を事前合意します。
コミュニケーション/運営
定例・臨時の会議体、時差対応、通訳/BrSEの配置、意思決定のエスカレーション経路を設計します。
要件変更時の影響分析と見積もりルール(スコープ管理)を明文化します。
コスト/契約
単価だけでなく、教育・通訳・ツール・管理の隠れコストを洗い出します。
フェーズごとの契約形態(請負/ラボ)の切り替え条件とSLA/ペナルティ条項を確認します。
関連記事:オフショア開発はなぜ品質が低いのか?失敗原因と改善策、QA体制まで完全解説
本記事では、【2026年版】のベトナムオフショア開発市場の現状と展望について、最新データに基づき詳細に解説しました。
ベトナムオフショア開発は、人件費上昇と競争激化という大きな転換期を迎えています。しかし、若年人材の供給力や日本との連携のしやすさといった独自の強みは依然として健在です。今後は、従来の「低コスト」依存から脱却し、高付加価値分野へのシフトを見据えることが成功の鍵を握ります。
ベトナムの市場を単なる開発拠点としてではなく、技術的成長を共に実現する戦略的パートナーとして捉え直し、リスク分散と品質管理を徹底した発注戦略を構築しましょう。
Border Z株式会社は、ベトナムを含むアジアの最新IT市場動向を深く理解し、貴社の事業フェーズに合わせた最適なオフショア開発戦略を提案します。ベトナムでの開発に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
最新記事
受発注業務のAI導入はどこまで可能か?|自動化できる範囲と導入前の判断基準
AIエージェント
AIエージェントの活用事例まとめ|業務別に見る導入パターンと判断ポイント
AIエージェント
AIエージェントとは?仕組みと生成AIとの違い、導入で失敗しない判断軸
AIエージェント
記事一覧へ戻る